タイトル(英)
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The reports of questionnaire about volcano
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アイテムタイプ |
紀要論文 / Departmental Bulletin Paper |
言語 |
日本語 |
著者 |
増渕 佳子
/ マスブチ ヨシコ
(
CiNii ID:
9000006863062
,
学芸員の部屋:
100195
)
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著者(英) |
Yoshiko Masubuchi
(
CiNii ID:
9000006863062
,
学芸員の部屋:
100195
)
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抄録 |
富山市科学博物館の特別展「タテヤーモ火山局」(2019年7月13日~9月8日開催)の基礎調査として,市民の火山に関する意識や関心,知識の程度を測るためのアンケートを実施した.また,活火山を抱える他地域との比較のため,雲仙岳災害記念館(長崎県)と箱根ジオミュージアム(神奈川県)の来館者,また「しんまい火山の学校」参加者(長野県)にも同様のアンケートを実施した.
アンケートの結果,いずれの地域でも火山を怖いと感じている人が多かった.また富山では,火山は身近ではなく,一般的な火山のイメージをもつ人が多かった.一方,近くに活発な火山を抱える地域では,その地域における火山活動の特徴や現象を理解している人が多かった.
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内容記述(検索用) |
1.はじめに
富山市科学博物館では,平成31年度の火山をテーマとした特別展(「タテヤーモ火山局」7月13日~9月8日開催予定)のための基礎調査として,市民の火山に関する意識や関心,知識の程度を測るためのアンケートを実施した.また,活火山を抱える他地域との比較のため,全国火山系博物館連絡協議会に協力いただき,雲仙岳災害記念館,箱根ジオミュージアムの来館者,また信濃毎日新聞社主催の「しんまい火山の学校」(地元小学生が火山について学ぶイベント)の参加者からも回答を得た.本稿では,アンケートの結果について報告する.
2.調査方法
当館を含む3つの博物館での調査は,図1のアンケート用紙を館内ロビーに設置し来館者に自由に回答してもらうものとした.富山市科学博物館では平成30年8月1日~9月2日(日)にアンケートを実施した他,期間中に開催した館主催の行事参加者からも回答を得た.雲仙岳災害記念館では平成30年11月10日~平成31年1月31日に,箱根ジオミュージアムでは平成30年12月1日~平成31年1月31日にアンケートを実施した.平成30年10月21日に開催された「しんまい火山の学校」では行事終了後に,参加した親子にそれぞれ用紙を配布し回収した.
アンケートの内容は,火山と聞いて思い浮かぶ言葉をできるだけ多く記述する自由記述と火山が好きか嫌いかといった意識を1~7の段階ではかる4つの設問(表1)からなり,回答者の属性として性別,年齢,在住地を尋ねた.
3.結果
3.1 富山市科学博物館での結果
3.1.1 回収数と回答者の属性(図2)
期間中,247件の回答を得た.回答者の男女比は男性45 %,女性51 %,無回答4 %であった.幼児~70代以上までの幅広い層から回答を得たが,主な回答者は小学生(48 %)と30代(11 %),40代(10 %)である.当館の来館者層から判断すると,小学生とその保護者と考えられる.回答者の多くは県内在住者であるが(71 %),お盆を含む夏休み期間中にアンケートを実施したため,東京都や滋賀県,神奈川県といった遠方の在住者からの回答も得た(14 %).
3.1.2 火山に対する意識
表1の項目ごとに,回答者の火山に対する意識について述べる(図3).なお,カッコ内に示した回答者の割合(%)は,無回答を除く.
①好き か きらい か:回答は3峰性の分布を示し,好きでも嫌いでもない人,好きな人,嫌いな人の3集団がいることがわかる.最も多い回答は「4どちらでもない(36 %)」で,次いで「1とても好き(16 %)」,「2まぁまぁ好き(14 %)」である.全体としては,「4どちらでもない」と回答した人を除くと,好きと回答した人(1–3の合計;41 %)はきらいと回答した人(5–7の合計;23 %)より多い.
②こわい か へいき か:回答が多い順に示すと,「1とてもこわい(32 %)」,「2まぁまぁこわい(18 %)」,「3ややこわい(14 %)」,「7とてもへいき(14 %)」である.火山をこわいと感じている人(1~3の合計; 64 %)は,平気だと感じている人(5~7の合計;26 %)の2倍以上である.
③身近 か 身近でない か:最も多い回答は「7とても身近でない(28 %)」で,次いで「4どちらでもない(19 %)」,「3やや身近(15 %)」である.身近だと感じている人(1–3の合計;33 %)より,身近でないと感じている人(5–7の合計;48 %)が多い.
A B
① 好き きらい
② こわい へいき
③ 身近な 身近でない
④ たのしい つまらない
④たのしい か つまらない か:最も多い回答は「4どちらでもない(42 %)」で,次いで「1とてもたのしい(15 %)」,「3ややたのしい(12 %)」である.つまらないと感じている人(5–7の合計;22 %)より,楽しいと感じている人(1–3の合計;37 %)が多い.
各設問に対するクロス集計を行った結果(図4),以下のことが明らかになった.
・「1とてもきらい」と答えた人の78 %が「こわい(1–3の合計)」,66 %が身近でない(5–7の合計),82 %がつまらない(5–7の合計)と感じている.
・「1とても好き」と答えた人の55 %がへいき(5–7の合計),88 %がたのしい(1–3の合計)と感じている.
・好きかきらいかの設問に対し「4どちらでもない」と答えた人の66 %が,楽しいかつまらないかの設問で「4どちらでもない」と感じている.
・「1とても身近」と答えた人の62 %が好き(5–7の合計),62 %がたのしい(1–3の合計)と感じている
・「7とても身近でない」と答えた人の72 %がへいき(5–7の合計)と感じている.
男女別に回答を比較してみると,
・好き(1–3の合計)と答えた人は,男性53 %,女性30 %である.
・こわい(1–3の合計)と答えた人は,男性54 %,女性74 %である.
・たのしい(1–3の合計)と答えた人は,男性46 %,女性28 %である.
3.1.3 火山と聞いて思い浮かぶキーワード
0–10程度のキーワードを記述した人が多かったが,中には17個以上のキーワードを示した人も数名いた(図5).平均回答数は3.8個である.回答者数の年齢が上がるほど,回答数が多くなる傾向が見られた.得られた計931件のキーワードには,回答者によって言い回しが違うものの同じ意味を示すものがある(例えば「噴火」「火山噴火」「噴火する」「山が噴火」など)ためそれらを整理し,以下の上位概念に従いキーワードを分類した.
・色 ・印象 ・音 ・恩恵
・温度 ・岩石・鉱物 ・規模 ・現象
・災害 ・人名 ・食物 ・地形・形態
・地名 ・匂い ・噴出物 ・分類
・マグマ
分類した結果,得られた回答数の多かった上位10項目について表2に示す.
多く挙がったキーワードは,分類別に見ると噴火や爆発といった「現象」に関するもの,溶岩や火山灰など「噴出物」に関するもの,「地名」に関するもの,「マグマ」に関するもの,怖いや危ない,かっこいいといった「印象」に関するものであった.
「現象」に関して,「火・火事」に関するキーワードが多く見られ,中には「山から火がでてくる」「火が噴き出す」といった回答もあった.現実には火山から噴出するのは溶岩であるが,真っ赤な溶岩を火のイメージと結びつけているためと考えられる.
「地名」に関して,全国の火山で見られる地名「地獄谷」を除けば,富山の活火山である「立山」より「富士山」と答えた人が多かった.また,「ハワイ」や「キラウエア」というキーワードも多く見られたが,これは2018年5月からキラウエア火山の噴火が活発になり,ニュース等で多く取り上げられていたためと考えられる.
「分類」に関して,現在では使われなくなった「休火山」「死火山」というキーワードが複数あった.
3.2 雲仙岳災害記念館(長崎県島原市)での結果
長崎県内の小学生を中心に,148件の回答を得た(図6).以下,富山の結果と比較し,特徴的な結果について述べる.
3.2.1 火山に関する意識(図6)
①好き か きらい か:好き(1–3の合計)と感じている人は,富山(41 %)と比較し,長崎は少ない(28 %).
②こわい か へいき か:「7とてもへいき(6 %)」と感じている人は少なく,こわい(1–3の合計)と感じている人が富山(64 %)と比較し72 %と多い.
③身近 か 身近でない か:富山では「7とても身近でない(28 %)」が最も多いのに対し,長崎では「1とても身近(31 %)」と回答した人が最も多い.「2やや身近」,「3まぁまぁ身近」を含めれば,51 %が身近に感じている.
④たのしい か つまらない か:富山と比較し大きな違いは見られなかった.
3.2.2 火山と聞いて思い浮かぶキーワード(図6)
0~5個のキーワードを書いた人が多かった.平均回答数は3.3個である.得られた495個のキーワードのうち,回答が多く得られた上位5項目は「現象」「噴出物」「印象」「地名」「マグマ」に関するもので,富山での傾向と同様である.一方で,現象に関するキーワードを見ていくと,「土石流」「火砕流」といった雲仙岳を特徴づけるような現象に関するキーワードが多く見られた.印象については,富山の回答で見られたような「すごい」「かっこいい」「きれい」といった好印象を示すキーワードは少なく,ほとんどが「恐怖」や「危険」に関するものであった.地名に関するキーワードは,「雲仙岳」や「平成新山」といった地元の火山に関するものや,「阿蘇山」「桜島」など近隣の活火山があがった.
当館には火山災害に関する展示が無いのに対し,雲仙岳災害記念館では,火砕流などの噴火現象や災害に関する展示をメインとする博物館なので,これらの回答の少なくとも一部は博物館での鑑賞体験に左右されているものと考えられる.
3.3 箱根ジオミュージアム(神奈川県足柄下郡箱根町)での結果
東京都や神奈川県など関東近郊の来館者が約半数を占め,博物館の立地から考えても,そのほとんどが箱根・大涌谷の観光客と考えられる.
3.3.1 火山に関する意識(図7)
①好き か きらい か:好き(1–3の合計)と感じている人が,富山(41 %)や長崎(28 %)と比較し,50 %と多く,きらい(5–7の合計)と感じている人は22 %と少ない.
②こわい か へいき か:「7とてもへいき(8 %)」と感じている人は少なく,こわい(1–3の合計)と感じている人が富山(64 %)と比較し77 %と多い.
③身近 か 身近でない か:身近でないと感じている人(5
–7の合計)が58 %と多く,「1とても身近」と回答した人は5 %と少ない.
④たのしい か つまらない か:たのしいと感じている人(1–3の合計)が53 %と約半数を占める.
3.3.2 火山と聞いて思い浮かぶキーワード(図7)
平均回答数は4.2個である.富山や長崎と同様の傾向があるが,現象に関するキーワードには「噴気」が多かった.地名に関するキーワードには,近隣の「富士山」が挙げられた一方,活火山である「箱根山」というキーワードは0であった.「富士山」の他,「御嶽山」や「キラウエア」「ハワイ」など認知度の高い火山が多かった.
3.4 「しんまい火山の学校」(長野県)での結果
調査方法の項でも述べたように,長野県でのアンケート調査は,火山に関する行事参加者を対象に行われたものである.行事終了後に行われたことから,講演や実験などの講座体験によって,回答者の日頃の意識とは大きく異なるものと考えられる.また,得られたキーワードについても,講座の中で学んだキーワードなどが挙げられているであろう.ここでは,小学生とその保護者への火山に関する普及教育行事の効果の例として,参考までに結果を紹介する.
3.4.1 火山に関する意識(図8)
①好き か きらい か:他の3地域では,「4どちらでもない」と回答した人が最も多かったのに対し,長野では「1とても好き(34 %)」と回答した人が最も多く,きらいだと感じでいる人(5–7の合計;6 %)はほとんどいなかった.
②こわい か へいき か:こわいと感じている人(1–3の合計;66 %)が多く,へいきだと感じている人(5–7の合計;19 %)は少ない.
③身近 か 身近でない か:富山や箱根では,身近でないと感じている人(5–7の合計)が多かったのに対し,長野では「1とても身近(31 %)」と回答した人が最も多く,身近だと感じている人(1–3の合計;69 %)が多い.
④たのしい か つまらない か:たのしいと感じている人(1–3の合計)が63 %と多く,つまらないと感じている人(5–7の合計;6 %)はほとんどいなかった.
3.4.2 火山と聞いて思い浮かぶキーワード(図8)
平均回答数は4.8個である.他の地域と比べて,温泉などの「恩恵」に関するキーワードが多く挙げられた.
4.まとめ
特別展「タテヤーモ火山局」の予備調査として,アンケート調査を実施した.各地域の結果をまとめると以下のようにまとめられる.
富山(富山市科学博物館):火山は身近ではなく,怖いと感じている人が多い.また,好き・嫌い,楽しい・つまらないといった感情を持っている人は少ない.火山のイメージとして「立山(弥陀ヶ原)」を挙げる人も一定数いるが,富士山やハワイ(キラウエア)などの有名な火山を挙げる人が多かった.
島原(雲仙岳災害記念館):火山を身近に感じている人が他地域に比べ多く,怖いと感じている.また土石流や火砕流をイメージする人が多かった.
箱根(箱根ジオミュージアム):関東圏や近県からの観光客が多く,火山は怖いと感じつつも,楽しく好きだと感じている人が多かった.噴気のイメージをもつ人が多い一方で,火山から連想する地名に箱根山は無く,富士山や御嶽山,ハワイ(キラウエア)などが挙がった.
長野(普及行事参加者):他地域と比較し,火山は怖いと感じながらも,好きで楽しいと感じている人が多かった.また火山を身近だと感じている人が多かった.火山への理解や防災教育の効果を高めるためには,展示だけでなく普及教育が必要だと考えられる.
5.謝辞
アンケートの実施に際し,全国火山系博物館連絡協議会加盟館の協力を得た.また,アンケート調査に快くご協力いただいた雲仙岳災害記念館の長井大輔氏,箱根ジオミュージアムの山口珠美氏,信濃毎日新聞社の土橋正道氏に心よりお礼申し上げる.
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雑誌名 |
富山市科学博物館研究報告
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雑誌名(英)
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Bulletin of the Toyama Science Museum
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号 |
43 |
ページ |
137 - 144
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発行年 |
2019-07-01 |
出版者 |
富山市科学博物館
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ISSN |
1882-384X
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NII書誌ID(NCID) |
AA12306127
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NII論文ID(NAID) |
120006652088
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著者版フラグ |
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大見出し |
資料
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