タイトル(英)
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Water qualities of lake water, river water, hot spring water and small ponds water around Mt. Tateyama (2018)
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アイテムタイプ |
紀要論文 / Departmental Bulletin Paper |
言語 |
日本語 |
著者 |
朴木 英治
/ ホウノキ ヒデハル
(
CiNii ID:
1000010373482
,
科研費研究者番号:
10373482
)
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著者(英) |
Hideharu Honoki
(
CiNii ID:
1000010373482
,
科研費研究者番号:
10373482
)
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抄録 |
室堂平周辺湖沼では,地獄谷に隣接したミクリガ池に比べてミドリガ池の方が地獄谷の噴気の影響を強く受けていた.血の池は2017年と比べて酸性成分の濃度は低下したがpHの値は2017年と同程度であった.リンドウ池のpHは2.93で2018年も強い酸性を示した.
地獄谷内を流れる紺屋川には強酸性の温泉水が流入しており,2018年は硫酸イオン濃度,塩化物イオン濃度共に2017年よりも高い値を示した.立山カルデラ内の新湯では硫酸イオン,塩化物イオンの濃度は,紺屋川と同程度であったがpHは3.39と高く,中和成分のナトリウムイオン濃度が高いことが原因として考えられた.
また,餓鬼ノ田圃(黒部川の上流),奥大日岳稜線付近の池沼,および,追分の池塘の水質は降水がそのまま溜まったものと推定された.
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内容記述(検索用) |
1.はじめに
立山周辺の陸水,温泉水などについて,2018年に採取した水試料についての分析データを記録する.
2.分析方法
水の電気伝導度は導電率計(堀場ES-14)で,pHはガラス電極法(堀場D-14)で,それぞれ計測した.イオン成分については,陰イオン成分をダイオネクスIC-2000で,陽イオン成分は島津HIC-6Aで,それぞれ分析した.
3.分析結果
3.1 室堂平周辺湖沼の水質
室堂平に存在するミクリガ池,ミドリガ池,血の池,リンドウ池の水質には噴気活動が活発になった地獄谷の影響が見られる(朴木,2016,朴木・川上,2015).
2018年の調査においても,2017年調査(朴木,2018)と同様,ミクリガ池よりもミドリガ池の方が,地獄谷の噴気の影響を多く受けているようで,塩化物イオン濃度,硫酸イオン濃度がミドリガ池の方が高く,pHは低くなった(補足表1).
血の池の2018年の水質は2017年10月の水質(朴木,2018)と比べて硫酸イオン濃度と塩化物イオンが低下し,中和成分のカルシウムイオンやカリウムイオン濃度が2017年と比べてやや増加していたが,pHの値は2017年と同程度であった(補足表1).リンドウ池は集水域内を噴気が直接通過するため,その水質は他の湖沼と比べても異質で,2018年の場合,硫酸イオン濃度は2017年よりも高かったが,塩化物イオン濃度は若干低くpHは2.93であった.また,リンドウ池に注ぐ湧水の水も噴気の影響を受けており,しかも,湧水の硫酸イオンや塩化物イオンの濃度は湖水のそれらの濃度よりも高かった(補足表1).これらの水のCl-/SO42-比の値は,ミクリガ池が0.37,ミドリガ池が0.35,血の池が0.17,リンドウ池が0.16,リンドウ池湖岸の湧水が0.18であった.2017年のこの比の値は,ミクリガ池0.27,ミドリガ池0.52,血の池0.45,リンドウ池0.22,リンドウ池湖岸の湧水は0.13であったので,ミクリガ池とリンドウ池湖岸の湧水以外は,この比の値が低下した(補足表1).
3.2 称名川水系と湯川水系の水質
地獄谷起源の温泉水が流入する称名川支流のミクリ川,紺屋川と称名川,および,立山カルデラ内の新湯の水質分析結果を示す.
ミクリ川,紺屋川の水は富山県立山カルデラ砂防博物館の丹保俊哉学芸員が5月,8月,9月,10月に採取した.ミクリ川の硫酸イオン濃度は111.6~131.9 mg/Lと変動幅は比較的小さかったが,塩化物イオン濃度は25.3 ~47.2 mg/Lと変動幅が大きく,Cl-/SO42-比の値も0.19~0.42と変動していた.紺屋川の硫酸イオン濃度は125.3~620.4 mg/L,塩化物イオン濃度は63.3~404.8 mg/Lで,いずれも変動幅は大きかったが,Cl-/SO42-比の値は0.51~0.70であった.丹保氏の私信によれば,紺屋地獄から紺屋川への温泉水の流出量は2017年よりも減少していたとのことであったが,紺屋川の硫酸イオン濃度や塩化物イオン濃度は8月2日調査時を除いて,2017年データ(朴木,2018)と比べてかなり高くなっていた(補足表2).
称名川の称名滝での水質は上記の地獄谷起源の温泉の影響を強く受けている(朴木,2015).2018年は10月に1回だけ調査を行ったが,硫酸イオン濃度は46.8mg/L,塩化物イオン濃度は16.2mg/Lで,いずれの成分も2017年10月の値と比べて高かった.しかし,Cl-/SO42-比の値は2017年が0.54であったのに対し,2018年は0.35と低下していた.この値の変化は地獄谷の噴気活動の変化に対応している可能性がある(補足表2).
新湯の温泉水は富山県立山カルデラ砂防博物館の白石 俊明学芸員が採取したものである.硫酸イオン,塩化物イオンの濃度は,それぞれ,293.2mg/L,149.7mg/L,Cl-/SO42-比の値は0.51で,前述の紺屋川の値に近い値であった.新湯の温泉水の硫酸イオンや塩化物イオンの濃度はミクリ川での濃度よりも高いが,pHは3.39で,ミクリ川の水と比べて高い値であった.これは,新湯の水のナトリウムイオン濃度が188.8mg/Lあり,ミクリ川の水(2.6mg/L~4.5mg/L)と比べてかなり高いため,中和作用が働いているためと考えられた(補足表2).
3.3 黒部川水系,神通川水系の水の水質
黒部川水系,および,神通川水系の水の分析結果を示す.
山岳調査関係の水は富山市科学博物館の平成30年度富山市山岳域自然調査の際に黒部川水系の源流域で採取されたものである.試料番号①と③はナトリウムイオン濃度とカルシウムイオン濃度がやや高く,地下水系の水が起源と考えられた.これに対して,試料番号②はナトリウムイオン濃度,カルシウムイオン濃度が低く,その他の成分濃度も低いことから,降水の水質がまだ保存されている状態の水と考えられた(補足表3).
餓鬼の田圃の池沼は黒部峡谷の祖父谷の源流域付近の稜線上の平坦部に点在している.①は比較的大きな池沼の水,②は池塘の水である.①の水はアンモニウムイオン以外の各イオン成分濃度が低く,降水がそのまま溜まったような水と考えられた.②の水も同様と考えられるが,ナトリウムイオンと塩化物イオンの濃度がやや高い点が特徴であった(補足表3).
大山恐竜足跡露頭の湧水はカルシウムイオン濃度が高く,pHも7.71と弱アルカリ性であるため,集水域内に石灰岩を含む地層が分布しているものと考えられた(補足表3).
3.4 奥大日岳稜線付近の池沼の水質
奥大日岳周辺の池沼の水の水質分析結果を示す.試料水は富山県立山カルデラ砂防博物館の白石俊明学芸員が採取したものである.Aは奥大日岳山頂間近の稜線付近,Bは山頂から南東に少し離れた稜線上にあり,いずれも標高2588 mの位置にある.これらの池沼ではクロサンショウウオが産卵していることが知られている.C,D,Eはカガミ谷乗越付近に位置しており,D,Eの標高は2428 mである.Fは室堂乗越の南側に下がった標高2344 mの位置にある.Fを除いて,全般にイオン成分濃度が低く,Cl-/Na+の値は1.15~2.23で,降水の海塩比の値(1.80)に比較的近く,降水がそのまま溜まっているような水質であった.Fは2017年調査時と同様,硫酸イオン濃度が他の池よりも高く,pHがやや低いことから,近くにある地獄谷の噴気の影響があるものと考えられた.また,10月22日調査では各池沼のイオン成分濃度は10月2日調査と比べて高くなっており,特に,奥大日Bではアンモニウムイオンやカリウムイオンの濃度が通常と比べてかなり高く,リン酸も少量検出された.これらに対して,大日岳周辺の池沼も奥大日周辺の池沼と同様な水質で,降水がそのままたまっているものと考えられた.松尾平周辺の池沼の水質も奥大日岳,大日岳の池沼の水質と似ていたが,松尾平2はカルシウムイオン濃度が比較的高く地下水起源の水のようである(補足表4).
3.5 追分地内の池塘の水の水質
追分地内の池塘群の一部の池塘の水の水質分析結果を示す.補足表5の試料番号が進むほど斜面の下部に位置している.池塘2を除いて,イオン成分濃度は非常に低く,降水がそのままたまっているように見える.参考に追分での7月と10月の酸性雨観測結果の値を付記する(朴木・渡辺,2019).
追分池塘No. 4の7月のデータでは,各イオン成分の濃度は追分観測点(1800 m)での降水観測結果の2018年7月や10月のイオン成分濃度と同程度であった.これに対し,10月の池塘の水質と10月の降水の平均濃度を比較すると,電気伝導度では池塘の水は降水の2.2~2.7倍程度であった.同様にイオン成分濃度で見ると,池塘の水のナトリウムイオン濃度は10月の降水の濃度の3.4~7.9倍,塩化物イオンは2.6~3.5倍,硫酸イオンは1.2~4.6倍であった.さらに,カルシウムイオン濃度でも1.3~3.9倍と他の成分の比率と同程度であるため,これらの池塘の水は地下水が溜まったものではなく,降水がたまっただけと考えられた.また,10月のデータでは各成分濃度が上昇しているが,単に蒸発による濃縮と考えられた(補足表5).
4.補足資料
この報告の補足表1~5は以下から入手することができる.
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.7996430
5.謝辞
室堂周辺湖沼の調査に際して,環境省中部山岳国立公園 立山管理官事務所および林野庁富山森林管理署立山森林事務所の承諾を得た.調査の一環として,富山県立山カルデラ砂防博物館の丹保俊哉氏と白石俊明氏に試料水を提供してもらった.ここに厚くお礼申し上げます.
なお,餓鬼の田圃の池沼の水のサンプリングは平成30年度富山県美術館・博物館研究助成の助成を受けて行った昆虫調査に付随したものである.
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雑誌名 |
富山市科学博物館研究報告
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雑誌名(英)
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Bulletin of the Toyama Science Museum
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号 |
43 |
ページ |
145 - 147
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発行年 |
2019-07-01 |
出版者 |
富山市科学博物館
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ISSN |
1882-384X
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NII書誌ID(NCID) |
AA12306127
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NII論文ID(NAID) |
120006652089
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関連リンク |
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.7996430
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