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「富山市科学博物館研究報告」第47号
を公開しました。(2023.7.5)
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富山県黒部市餓鬼ノ田圃に生育するコケ植物と湿原環境
File / Name
License
43_59-61
43_59-61 (1.86MB)
[ 460 downloads ]
タイトル(英)
Brophytes at Gakinotanbo, Kurobe-shi, Toyama Prefecture
アイテムタイプ
紀要論文 / Departmental Bulletin Paper
言語
日本語
著者
坂井 奈緒子
/ サカイ ナオコ
( CiNii ID:
9000006103560
, 学芸員の部屋:
100199
)
吉岡 翼
/ ヨシオカ タスク
( CiNii ID:
9000014259978
, 学芸員の部屋:
100196
, Researchmap:
estherian
)
著者(英)
Naoko Sakai
( CiNii ID:
9000006103560
, 学芸員の部屋:
100199
)
Tasuku Yoshioka
( CiNii ID:
9000014259978
, 学芸員の部屋:
100196
, Researchmap:
estherian
)
抄録
富山県黒部市宇奈月町にある餓鬼ノ田圃の池塘で,コケ植物とその環境を調査した.湿原環境は小規模で,確認されたコケ植物8種中,ミズゴケ類はハクサンミズゴケ1種類のみであった.本種は,立山弥陀ヶ原から室堂平では近年生育が確認できない種であり,貴重な生育場所であると考えられる.
内容記述(検索用)
1.はじめに
餓鬼ノ田圃(北緯36度40分,東経137度41分,標高約1,630 m)は,富山県黒部市宇奈月町にある黒部峡谷トロッコ電車の終着駅欅平から,南東方向に直線で約3.6 km先,餓鬼山に続く尾根沿い近くの緩斜面あるいは平坦なエリアである(図1).Googleマップの航空写真(https://www.google.co.jp/maps/@36.6794112,137.7059179,378m/data=!3m1!1e3)から,登山道の南側平坦地は立木のない植生が見てとれた.餓鬼ノ田圃へは,標高約600 mの欅平から距離にして約5 km,標高差約1,030 mの登山道を登る厳しい行程のために訪れる人は稀である.地名の餓鬼ノ田圃が池塘を意味するように,本多(1964)の北アルプスのガキ田分布図に本調査地が示されているが,調査内容はなく,実際の調査はされていないようである.平野(1962)のミズゴケ湿原の藍藻では,本調査地の藍藻も報告しているが,コケ植物についての報告は見つけることができなかった.
池塘に生育するコケ植物については,富山県内からは,池塘の多い立山弥陀ヶ原でのミズゴケ相の報告がある(坂井 2017).餓鬼ノ田圃は,北アルプスのガキ田分布図の中で最も低い標高にあり(本多 1964),両所のコケ植物を比較することは興味深いと思われた.
2018年7月,著者の一人の吉岡が昆虫調査に同行した際,餓鬼ノ田圃に生育するコケ植物を採取したので,その生育種を報告し,立山弥陀ヶ原との違いについて考察する.なお,調査地のより詳しい環境については,後日,昆虫調査報告でされる.
本調査地は、登山道より南側が特別保護地区のため,環境省の採取許可(環中中国許第1806285号)を得て行った.許可を得るにあたり環境省中部山岳国立公園 立山管理官事務所や富山県自然保護課に,入林については林野庁富山森林管理署にご配慮いただいた.昆虫調査に付随してコケ植物調査を行ったが,昆虫調査は,富山県博物館協会の研究助成によって行われたものである.関係各所にお礼を申し上げる.
2.調査方法
2018年7月30日に,餓鬼ノ田圃の池や池塘,湿地,やや湿った環境に生育するコケ植物を調査した.主に調査し資料を採取したのは,登山道の北側2箇所の池(図1の地点A, B),南側の湿性草原(図1の地点C, D)であった.南側の湿性草原は,植生の違いから地点Cと Dに分けたが,同じ平坦地に約80 m離れて隣り合っていた.各地点で見つかったコケ植物は素手で採取し,博物館へ持ち帰り,実体顕微鏡及び光学顕微鏡下で種類を同定した.採取した資料は富山市科学博物館植物収蔵庫(TOYA)に保管されている.
3.結果と考察
登山道北側の地点A, B(図2, 3)の池の水中に,コケ植物は見つからなかった.地点Aの池の近くの土上にはミヤマサナダゴケPlagiothecium nemorale (Mitt.) A.JaegerとクモノスゴケPallavicinia subciliata (Austin) Steph.が生育していた.地点Bの池の近くのやや湿った土上にはコチョウチンゴケMnium heterophyllum (Hook.) Schwägr.,ナンブサナダゴケPlagiothecium laetum Schimp.,オタルヤバネゴケCephalozia otaruensis Steph.,エゾミズゼニゴケPellia neesiana (Gottsche) Limpr.が生育していた.上記の種類は,低地から山地にかけての適湿から少し湿った土上で普通に見られる種であり,景観と生育種から池の周辺は湿原ではないことがわかる.
登山道南側の地点C(図4)は,スゲ属が優占する湿性草原で,その中に湛水している池塘が6つ,乾いた池塘が3つあった.湛水している池塘の長径は1.2~4.5 m,水深は3~90 cmとばらつきがあった.池塘の岸辺の浅い水中や,陸地の湿った土上でハクサンミズゴケSphagnum acutum Warnst. var. hakusanense Warnst.が見つかった(図5).ハクサンミズゴケは,高山帯の池塘やその周辺に生育する種類であり(滝田 1999),弥陀ヶ原で記録されているが(鈴木 1978),坂井(2017)の2009年の調査では確認されていない.本種は,地点Bより東に100 m程行った小さな凹地の湿った土上でも僅かに生育していた.本調査地で見つかったミズゴケ類は,本種のみであった.標高1,760~1,950 mの立山弥陀ヶ原では15種類のミズゴケ類が記録されており(坂井 2017),餓鬼ノ田圃は極めて小規模なエリアであることを差し引いても,ミズゴケ類の少なさが際立つ.地点Cの池塘近くの湿った土上にササバゴケCalliergon cordifolium (Hedw.) Kindb.(図6)とナンブサナダゴケPlagiothecium laetum Schimpが生育していた.ササバゴケは,湿地に群生する種であり,立山地獄谷(坂井 2008)や天狗平(坂井 未発表)でも確認されている.調査時,湿性草原のスゲ属の下のやや湿った土上で見つかったハクサンミズゴケやササバゴケは,雪解け水や雨量が多い時季は,水に浸かる環境で生育していると考えられる.地点Cは,ハクサンミズゴケとササバゴケの生育状況やミズゴケ類の少なさから,湿原の乾燥化が徐々に進み,湿性草原に遷移していると推測される.
地点Dはヤマドリゼンマイが広がる湿性草原であった.ヤマドリゼンマイの生育密度が低い所で見つかったウマスギゴケPolytrichum commune Hedw.は,適湿地からやや湿った場所に生育する種類であり,地点Dは雪解け水や雨量が多い時季でも湛水されにくく,一年を通して地点Cよりも乾燥していると考えられる.
コケ植物の生育種から見て,餓鬼ノ田圃において湿原は地点Cのみにあったが,生育種は少なく,乾燥化が進んでいるように思われる.地点Dは,以前は湿原であったが,乾燥化が進み,湿性草原になっているのではないかと推測される.コケ植物の生育種類は少なかったが,近年立山で確認されていないハクサンミズゴケが生育することは興味深く,特筆すべき点である.
雑誌名
富山市科学博物館研究報告
雑誌名(英)
Bulletin of the Toyama Science Museum
号
43
ページ
59 - 61
発行年
2019-07-01
出版者
富山市科学博物館
ISSN
1882-384X
NII書誌ID(NCID)
AA12306127
NII論文ID(NAID)
120006652080
著者版フラグ
publisher
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短報
大見出し(英)
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